「タオの雄武発見」色々習ってきた酪農牧場の体験

北海道の重要な産業の一つとして、酪農業には多くのベトナム実習生が働き、これからまだ増えていくと思います。酪農に従事するベトナム人のために、参考になる資料を作成できたらと考えて、私は10月に雄武町の栄丘にある二つ牧場で酪農の仕事を体験して、色々教えてもらいました。

それぞれの牧場によって、勤務時間が違いますが、全体を見ると、朝が早い、昼間の休憩が長いのは酪農業仕事の特徴です。1日の流れの例を挙げます。

05:00~07:00:搾乳作業、片づけ

07:00~08:00: 牛舎掃除・哺乳作業

08:00~08:30: 休憩

08:30~09:00: 給餌(配合)

09:00~13:00: 休憩

13:00~14:30: 給餌(配合)、牛舎掃除

14:30~16:00: 搾乳作業、片づけ・哺乳作業

16:00~17:00:掃除

ミルクは酪農家の収入源になるため、搾乳は日々欠かせない作業ですね。また、乳牛が、たくさん美味しい生乳を出せるように、健康とストレス無しの環境を作るのも大事なので、体験の時、搾乳と掃除は1日の作業の中で一番多く時間を費やしました。

搾乳

搾乳作業は1日に朝と夕方、2回に分けて行われます。乳牛も人間のように、ずっと生乳が出続けるわけではなく1日の間にできるだけ同じ時間を空けて絞るのがよいとされているので、朝と夕方に分けて搾乳することになります。

雄武に引っ越しする前、搾乳といえば、手で搾ると時代遅れの私はずっと思っていたのですが、実は技術進化と共に、現在いろいろな搾乳機械が導入されています。パイプライン方式、ミルキングパーラ方式、搾乳ロボット方式で3種あり、どちらの機械を使用するのかは牧場の規模など、様々な要素により異なります。

私が体験させてもらった牧場では搾乳ロボット方式とパイプライン方式を導入しています。

ロボットが24時間稼働するので、ミルクを絞ってもらいたい時、牛たちが自らロボットの搾乳場に入ります。そのため、搾乳時間をだいぶ節約できますが、機械自体が故障などが多くて、また「自動化」に慣れていない牛や搾乳して欲しくない牛を機械まで追い込むのにかなり時間がかかりました。

搾乳ロボット

パイプライン方式は現在一般的に多くの牧場で導入されていると思います。体験した牧場ではミルカーと呼ばれている機械の6台を左右に分けて、それぞれの搾乳ユニットを一頭一頭、合計でやく60頭の牛のもとにもっていき、ミルクタップと接続し、作業を進めました。順番や機器、細かい方法は農家さんによってさまざまですが、以下の流れはほとんど共通していると思います。

ミルカー
搾乳ユニットの移動
ミルカー操作
ミルクタップとの接続
ミルクタップとの接続
  • 殺菌と病気予防のための消毒
  • 異常発見と刺激の為の手で前搾り
  • 乳房の清拭
  • ミルカーのティートカップ装着・離脱
  • 搾乳後の乳頭消毒
手搾り
前搾り
乳房の清拭
乳房の清拭
ティートカップ装着
ティートカップ装着
乳頭消毒
乳頭消毒

分娩後初乳期間中や乳房炎治療中など牛の健康状態により、バケット、あるいはミルカーで別搾りをし、子牛に飲ませるとか廃棄とするので、しっかり確認する必要があります。もし間違って、治療されている乳頭からの生乳をミルカーで搾ってしまえば、バルククーラに保管している生乳は全て廃棄となり、最悪な場合は、間違ったことに気が付かず集乳車に入れると、他の牧場の生乳も完全にダメになり、損害がさらに多くなります。

バケット
バケット
確認作業
ミルカー、それともバケットで搾るのかボードに書いてある情報を確認

掃除

搾乳作業場所や機器の清掃はもちろんですが、牛が日々生活している牛舎、寝床の清掃や糞・尿の処理をし、牛舎を毎日清潔に保つのは大事なことです。

ミルカー洗浄
子牛ハッチの掃除
子牛場所の掃除
寝床の清掃
消毒

排泄量は採食量によって異なりますが、搾乳牛の場合は1日平均45~50kgの糞と15kgの尿を排泄するので、糞掻きは果てしなく続くかと思いました。

冬にフンが凍ってしまったこともあるので、掃除はさらに時間がかかったことも聞きました。

給餌(配合)

牛は草食動物ですが、草だけ食べると乳を出す能力を十分に発揮できないため、牛の餌は粗飼料と濃厚飼料の2種類に分かれ、酪農家が乳牛の健康状況(乾乳中など)によってバランスを良くとって、与えています。

粗飼料:草、あるいは草をもとに作られた乾草、わらやサイレージなど繊維質が多く、乳牛にとって主食です。

濃厚飼料:トウモロコシや大麦などの穀類、大豆かすなどの油かす類、乳牛にとってはおかずのようなものです。牛たちはこの飼料が大好きで、与えるとすぐ集まってきて、あっという間に食べてしまいました。

粗飼料はご飯・野菜としたら、濃厚飼料は肉・魚だと牧場で仕事しているベトナム人の実習生が例えてくれました。

哺育・育成

子牛の体は弱くて、病気になりやすいので衛生に気を配ったりするなど色々な仕事があります。

哺乳瓶などを使い、生後数週間の子牛を哺乳させることは簡単ですが、生まれたばかりの子牛であれば、人が怖がって、逃げる傾向がある為、時間がかかりました。

成長に従って、ミルクと一緒に、草や濃厚飼料を加えていきます。

また、冬の時、抵抗力が弱い子牛に下痢などさせないため、寒さから守る防寒ジャケットも着用して、工夫しています。

今回は体験できなかったのですが、上記の仕事のほか、分娩手助や畑・牧草などの収穫作業も色々あります。何頭も同じ時に分娩すると、寝られない場合もあり、収穫時期に猫の手も借りたいほど忙しいという話も農家さんから聞きました。

短期間の体験でしたが、牧場で仕事をすると、健康な生活ができると夜型の私は思います。朝早く起きて、夜早く寝て、また体力が必要なので、全身の運動になります。運動不足の私は最初の日の仕事が終わってから、筋肉が辛くて、動けなくなったほどでした。

健康なライフスタイルが良い点ですが、留意すべきことも色々あります。例えば、現在搾乳機械の導入のおかげでミルクの手搾りは無くなったのですが、異常発見と刺激の為、一頭4〜5回前搾りが必要であり、手搾りは一日百回以上で手根管症候群(手の使い過ぎなどが影響してこの部分で神経が傷むことで、指先にしびれがきたりする病気)になる可能があると、酪農の情報を調べた時分かりました。また、牛に蹴られたり、転んだりすることなども気をつけなければいけません。

今度の体験を通じて、酪農家の仕事、また大変さもよく理解でき、農家さんたちの協力に心から感謝しました。この貴重な経験をまとめ、これから酪農で就職するベトナム人皆さんに役立つ資料作りを進めていきたいと思います。